水銀量が多いクジラの肉を食べるのは、厚生省のアナウンスが出るまでもう少し待った方がいい(特に妊婦)

謝花ミカ
9 min readJul 2, 2019

商業捕鯨が解禁された。もしあなたが妊婦の場合、水銀が含まれる鯨やマグロは1週間に1切れが目安だ。(※海外の調査によると、基準値を超えたクジラの肉が発見されているため、食べない方がいい場合もあるかもしれない。詳しくは後述)以下は厚生労働省の資料。

https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/100601-1.pdf

ただし、これは商業捕鯨が始まる前の平成22年の資料だ。今日本はIWCを脱退し、水銀量が少ない南極海のクジラを獲れなくなり、日本近海のみの捕鯨となる。なお、日本近海で取れるクジラは水銀量が比較的多い。そのため、日本近海のクジラを食べるのは厚生省のアナウンスが出るまでもう少し待った方がいいと題打った。後述する。

クジラ、マグロ、イルカに水銀が多い理由

クジラやマグロ、イルカは海にいる生物の中でも食物連鎖の上の方に位置する。水銀は食物連鎖ピラミッドの上に行くにつれて濃縮すること(生物濃縮)が知られている。クジラやマグロ、イルカは食物連鎖の下に位置する魚を多く摂取していくため、水銀が濃縮されてしまうのだ。

そしてそのような生物を摂取する人間は、さらに水銀レベルが濃縮されるという事になる。

「捕鯨の町」として知られ、鯨類を食べる機会が多い和歌山県太地町の住民約1千人を対象に、毛髪中のメチル水銀濃度を測定したところ、鯨類をほとんど食べないほかの14地域の平均値よりも男性で約4.5倍、女性で約4倍高かったと町と国立水俣病総合研究センター(熊本県水俣市)が9日発表した。

このように報じられている通り、商業捕鯨を歓迎するのは結構だが、鯨肉を摂取することは水銀のリスクもあるということは知っておくべきだろう。

さて、食べる機会はないとは思うが、イルカなどはご覧のようにかなり水銀量が多く、イルカを食べた場合、水銀が含まれる魚類の摂取は数ヶ月ほどは開けた方がいいと思われる。

妊婦なら、EPAやDHAの多いサバやシャケを食べるのがいいだろう。

DHAの摂取で子供の高血圧の可能性が減るという研究もある(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30794304)。

クジラの肝臓は食べてはいけない

クジラの肉は上記のように1週間一切れとしても、肝臓は食べてはいけない。

この記事にはこのように書いてある。

調べた26の肝臓サンプルのうち2つは、肝臓1グラムあたり1970マイクログラムを超える水銀を含んでいました。それは、水銀汚染に対する日本政府の限界の約5000倍(1グラムあたり0.4マイクログラム)です。

これらの濃度では、たった0.15グラムの肝臓を食べる60キログラムの成人は、世界保健機関によって安全と考えられている毎週の水銀摂取量を超える

クジラとイルカの肝臓の水銀濃度は平均して1グラムあたり370マイクログラムで、政府の上限の900倍でした。腎臓と肺の平均レベルも高く、限界の約100倍でした。どのサンプルも限界以下ではありませんでした。

また、以下は北海道医療大学の研究だ。

和歌山県で販売されていた鯨内臓食品の水銀濃度は著しく高く、肝臓から最高で2000ppmの総水銀が検出された(Sci. Total Environ.,300,15–22,2002).

とのことなので、内臓、特に肝臓を食べるのは妊婦でなくても控えるべきだろう。

日本政府の制限値を超える鯨肉も

上記記事によると、イギリスの環境調査局(EIA)の調査では、流通している鯨肉でも制限値を超える水銀が発見されたという。

すべてのサンプルで、水銀汚染が日本政府が推奨する0.4ppmの安全レベルを超えていました

Yahoo! Japanから購入した乾燥パイロットクジラ肉の一例では水銀レベルは19ppmであることがわかりました — これは、安全限界の47.5倍という驚くべきものです。

このことから、これから流通する鯨肉はどうだか分からないが、今までこういった事例があるのだから、出来るだけ妊婦は鯨肉を摂取しない、という自己防衛もすべきだろう。

その他の有害物質も含まれるとの研究結果

下記は鯨肉にPCB、DDTなどが含まれていたとの研究結果だ。

20年前の研究で、しかもDDTはすでに使用禁止になっているので、現状はどうなっているかは不明だが、このような研究結果もあるということだ。

1999年, 全国6都市で販売されていた鯨肉製品61点について, 重金属 (水銀, カドミウム, 鉛) 及び有機塩素系化合物 (PCBs, DDTs, HCHs, HCB, dieldrin) の汚染実態調査を行った. ハクジラの赤身肉では水銀汚染が, ハクジラ及び北太平洋産ミンククジラの脂身にはPCB及び有機塩素系農薬の汚染が顕著にみられた. 鯨肉の多食によってこれらの汚染物質の摂取許容量を超えることも考えられるので, 食品としての安全性を再検討する必要がある.

イルカ肉がクジラと表示されて販売されるケースも?

困ったことに、水銀量が非常に高いイルカ肉が、クジラ肉と偽って販売される場合もあるという。

上記 生協のWebサイトによると、

鯨肉のうちイルカ(歯鯨類)の肉には特に高い濃度のメチル水銀が含まれるため、妊婦、幼児、近く妊娠を予定されている方は、イルカ肉の摂取を控えることをお勧めします。なお、イルカ肉が「ミンククジラ」「クジラ」等と不適正な表示をして販売されるケースもあるのでご注意ください。

とのことだ。そのような場合、非常に多くの水銀を摂取してしまうことになるので、妊婦はそもそもクジラという表示のある肉は食べない方がいいとも言えるかもしれない。

確かに、イルカは哺乳綱鯨偶蹄目クジラ類ハクジラ亜目であるため、「クジラ」と言えなくもないのかもしれない…。

南極のクジラは水銀が少なかった。でも今後は南極海産のクジラは食べられない

上記Webサイト(平成15年1月16日更新)の

一般市場に流通している鯨由来食品の大半(50%以上)を占める南極海ミンククジラのPCB・水銀濃度は低く、

との記載がある。しかし、IWCから脱退したことにより、南極海での捕鯨は禁止となった。

なので、日本で流通する鯨肉は排他的経済水域(EEZ)内で捕鯨されたクジラとなる。上記Webサイトでは日本近海のツチクジラの筋肉に含まれる水銀量は2.6ppmとなっている。一方で南極海のミンククジラは0.07ppmだ。本当は種を同一にして比較すべきだが、このサイトにはこのような情報しかなかったので、参考までに。

結論

あなたが妊婦なら、鯨肉は週に1切れまで(平成22年6月1日時点。厚労省調べ)。ただし、日本近海のクジラの水銀量に基づいた値なのかは不明なので、厚労省の資料が日本近海のクジラの水銀の数値に基づいて更新されるのを待つべきだ

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謝花ミカ

理系と文系の学際的領域から社会学、自然科学、工学分野について記事を書く。