BluetoothはAACが最強だった… aptX(HD) vs AAC vs SBC 最終決戦

AACがあまりにも優秀すぎる件

前回、私はaptXとSBCの音質に違いがないことを結論し、またAACが低ビットレートにもかかわらず高音質であることの説明を行なった。

またSBCのリスニングテストを行ない、高音質であることを示した。

今回私はRightMark Audio Analyzerを用いて、AAC、aptX、aptX HD、SBCの各種定量的評価を行なった。

音質の評価

周波数応答

まずは周波数応答から見てみよう。

周波数応答
SBCの周波数応答の拡大図 — 20kHzまでは出ている

このグラフを見ると、SBCが最も最初に落ち、次にAAC、aptX、aptX HDの順になっている。しかし、周波数応答だけでは音質を語ることは不可能である。いくら高音域が出ていようとも、可聴域の音質が悪ければ全く意味がないからだ。このテストでは、最下位のSBCで18kHzにおいて-1.5dB~-2.5dBを記録して下がり始め、20kHzにおいては-3~-4.5dBとなっている。これは知覚できる音量差としては小さい数字だ。

そのためSBCを含め、どのコーデックも20kHz近辺まで出ていると言え、どれも合格点となろう。

ノイズレベル

次はノイズレベルを見ていきたい。AAC、SBCは全くと言っていいほどノイズがないものの、aptX系は聴こえない程度の音量ではあるがノイズが乗っかっているのがわかる。

ノイズレベル

しかしながらこの程度のノイズは知覚できるものではないため、このテストにおいてもどれも問題がないことがわかる。

ダイナミックレンジ

ダイナミックレンジを測定すると、SBCが悪く、次にaptX系、そして最も優秀なのがAACとなっているが、SBCでも16bit相当の95dBのダイナミックレンジが確保されており、いずれも問題がないレベルである。

ダイナミックレンジ

THD+N (全高調波歪+ノイズ)

リファレンスファイルを分析したもの

このグラフは1kHz信号の入力時における高調波の出方を見るものである。したがって左のリファレンスファイルのように、1kHzの信号がしっかりと出ていて、それ以外はフラットであることが本来望ましい。

このグラフより、1kHzに信号が出ており、3kHz、5kHz、7kHzと奇数次の高調波が記録されているのがわかる。高調波のノイズは-160dB程度であり、これは知覚することは不可能だ。

このグラフの見方がわかったところで、コーデックを比較してみる。平均してノイズがあるのがaptX、aptX HDの順であるが、高調波自体は出ていない。AACは平均してaptXよりもノイズは小さい。SBCは歪みのレベルが高く、知覚できる可能性も否定できない。

ちなみに、紫だけが1kHzで突出しているように見えるが、これはSBCが最も前面に描かれているだけで、他のコーデックもこの部分の信号はしっかりと出ている。

THD + Noise (at -3 dB FS) — SBCの紫に隠れて見えないが、他のコーデックも1kHz部に問題なく信号が出ていた

相互変調歪み (IMD)

リファレンス

以下のように、最も悪いのがaptXとSBCで次にaptX HD、最も優秀なのがAACとなった。SBCは若干IMDが大きめに出ている。

相互変調歪み (IMD)

クロストーク

クロストークは左右のセパレーションが悪いことによって起こり、これにより定位感がおかしくなることがある。クロストークが起きたのはaptX系のみで、AAC、SBCでは観察されなかった。AACとSBCが優秀である。

クロストーク

それ以外の比較

信号強度の変動による音の途切れ (接続品質)

電波強度が悪くなるほど(右→)接続品質が悪化(上↑)する度合いのコーデック別比較 (SoundGuys)

以下の記事で触れたように、AACとSBCは並んで接続の安定性が高く、逆にaptX HDはビットレートの高さから、最も接続の安定性が悪い。

比較すると接続品質は高い方からAAC>SBC>aptX>aptX HDの順になる。

遅延 (レイテンシ)

ネット上のいくつかのテストではAACが最も遅延し、ついでSBC、aptX HD、aptXとなる例が多いが、私が行なった前回のテストでSBCとaptX間のレイテンシの差は32ミリ秒で、14%の差であること明らかになっているほか、Android端末などにおいてはどのコーデックも等しく遅延していることを結論づけた。また一番遅延すると言われているAACも、AAC-ELDの採用によって遅延を大幅に減らすことができるため、一概には遅延するとは言えない。またこのテストは今回行うことができないため、この記事で評価に入れることは避けておく。

結論

最も優秀と結論づけられるのはAACで、ノイズレベル、ダイナミックレンジ、IMD+N、クロストークは非常に良好である。次点でaptX HDで、周波数応答に優れるがIMD+NがAACよりは若干劣る。AACとaptX HDは総合評価ではVery Goodとなり、並んだ。次にaptXとSBCが総合評価でGoodとなった。優劣をつけるならば良い順にAACaptX HD>aptX=SBCとなろう。

ただし、人間の耳ではこれらの違いを感じることは難しく、実際に聴いてみたところ全く違いがわからないのは前回も論じた通りだ。

ただ、時々見かける、aptXの方がAACより音質が高いといった感想などは明らかに間違っているといえ、正しくは聴感上どちらも同じ(今回見てきたように数値上はAACが上)だ。

AACは高音質であるにもかかわらずビットレートが256kbpsと一番低いため、電波の混信に強い。対してaptX HDはビットレートが576kbpsもある割にAACに数値上劣り、ビットレートが高い分、接続品質が変動しやすく電波のノイズに弱いのが実情だ。

AACは10回再圧縮を繰り返してもほとんど音質が劣化せず、例えばAACで圧縮されたApple MusicをAAC対応のイヤホンで聴く — つまり2回圧縮されている — ことをしても、劣化を感じることはできないだろう。以下の記事で実験を行なっており、実際に聴くことができる。

追記:Kamedo2氏によるリスニングテストでも、AACの音質が良いことが示されている。以下参照。

数値の一覧

AAC

Excellent 5, Very Good 2, Good 0, Average 1

AACの評価は Very Good

aptX

Excellent 3, Very Good 1, Good 1, Average 3

aptXの評価は Good

aptX HD

Excellent 4, Very Good 1, Good 2, Average 1

aptX HDの評価は Very Good

SBC

Excellent 3, Very Good 0, Good 3, Average 2

SBCの評価は Good

これらの結果より、Excellent, Very Goodの数の数ともにAACが勝っていることがわかる。

注意

AndroidはメーカーごとにAACのエンコードパラメータが違うという情報があるため、利用するときは注意したい。また、AndroidはAppleデバイスのAACエンコーダよりも性能が若干悪いため、この記事の結論はAndroidにおいては必ずしも当てはまらないことがある。この実験は音質が高いとされるApple製のAACエンコーダを利用している。

実験の概要

テストはffmpegのaptx系エンコーダとMacのApple製AACエンコーダを使って行なった。なおサンプリングレートは48kHzで、エンコード後のファイルをデコードする際はfloat 32で処理して量子化誤差による劣化を抑えている。AACは256kbps、SBCは345kbpsである。aptX系はビットレートはサンプリングレートに対して固定で、aptXは384kbps@48kHz、aptX HDは576kbps@48kHzである。

理系と文系の学際的領域から社会学、自然科学、工学分野について記事を書く。

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