JPEGで写真を撮ることがもったいない理由

データを捨てることになるJPEGで撮るのはやめよう

謝花ミカ
May 25, 2024

先日、古いカメラではあるが、Nikon D3200を久々に引っ張り出してきた。それはiPhone 13の絵作りが気に食わなかったからだ。デバイスのセンサー性能や画像処理も進化しているが、やはりスマートフォンのカメラのシャープネスの処理などは“映える”ように過剰に処理をしている気がしてならない。センサーサイズやレンズサイズも全く違うから、スマートフォンがカメラ専用機に勝つことは今後も難しいと思っている。

古いエントリークラス一眼レフでもHDR画像を作れる能力はある

Nikon D3200は特にHDR画像が作れるようなことは発売時には言われてはいないが、少なくともJPEGのダイナミックレンジ以上の画像を記録することができる。JPEGはそのフォーマット上の制限から、各色8bitの範囲 — すなわち256段階 — でしか記録できない。つまり256^3=1677万色しか表現できないとよく言われる。非常に荒く説明するとHDRはそれが少なくとも10bitや12bitに拡張された形となるから、10bitでも10億色が表現できることになる。

はっきりいって私はJPEGが大嫌いである。理由としては圧縮率がそれほど高くないことや、可逆圧縮のオプションがないことが挙げられる。そして、そもそもの問題点としてはイメージセンサーのダイナミックレンジが8bit以上であるのに、それを表現できないことにある。

今回撮った写真のヒストグラム — SDRでは表現できない範囲まで撮れている

試しに、12年前に発売されたD3200を使ってRAWで写真を撮った。これをLightroomに入れ、「自動」でトーンカーブやコントラストを整えた後、各フォーマットで出力し、Apple macOSの写真.appで開いてみる。

まず以下はJPEGである。

JPEG 品質100% (8bit/channel)
TIFF Lossless 32bit (10bit/channel)

そしてこれはHDRで出力した32bit (各色10bit)のTIFF画像である。また、Macbook Pro XDRディスプレイで表示させると、太陽光の反射が白飛びすることなく明るく映っていた。玉ねぎも明るく表現させ、ホットドッグソースのシズル感をうまく描いていた。

そのほか、Lightroomで出力できるJPEG XR、AVIFなども試した。JPEG XRは〜128bit(各色16bitや32bitなどが可能)まで表現できるが、これはD3200のダイナミックレンジを遥かに超えているので、32bit (各色10bit)のTIFFとそう見た目は変わらなかった。

JPEGはHDRを表現できないのに、サイズを無駄に消費する

Lightroomから書き出したフォーマットのサイズは、TIFF, DNG, JPEG XLロスレス, JPEG, JPEG XL非可逆, AVIFの順に小さくなった。各フォーマットの詳細としては、TIFFは32bit (各色10bit)でZIPによる可逆圧縮、JPEG XLはそれぞれロスレスと画質100%、JPEGは画質100%、AV1は画質100%となっている。

JPEGはHDRでもないにも関わらず、AVIFやJPEG XLよりもサイズが大きくなった

驚くべきはAVIFのサイズである。4000x6016pxのHDR画像が5.9MBで済んでしまう。TIFFやDNGはロスレス画像だし、最終的な配布フォーマットではなく編集などで使う中間フォーマットのためサイズには目を瞑るが、同じロスレスだとJPEG XLの67.3MBもなかなか優秀と言える。

対応状況

このように次世代フォーマットは効率的でHDRにも対応しており、また可逆圧縮オプションなども選択できて非常に高機能である。ただ、まだ次世代フォーマットはデファクトスタンダードというべきフォーマットはまだ決まっていない。最近のミラーレスやiPhoneではHEIFで撮ることができるし、それも次世代フォーマットでHDRにも対応しているが、H.265のライセンスなども絡んでくるためロイヤリティ面で対応機器が少なかったりする。

Webの対応

Webでは、現状ではAVIFしか対応していないようである。AVIFはロイヤリティフリーのため、特許料を気にせず実装が可能であるためこのようになっていると思われる。

JPEG XL は iOS Safari しか対応していない
AVIF はモダンブラウザではほぼ対応している
HEIF は iOS Safari しか対応していない

OSの対応

Mac OSではFinderでも写真.appでもJPEG XL, AVIF, もちろんHEIFにも対応していた。WindowsではJPEG XLやAVIFはExplorerでプレビューできなかった。しかしながらこれらは改善されると思われる。なぜならHDR壁紙の対応などOSのAPIレベルでは進んでいるからだ。

まとめ

100万円するようなミラーレスでも、JPEGで撮った写真のダイナミックレンジはiPhoneのRAWで撮った写真のダイナミックレンジより少なくなる[*]。これはセンサーの問題ではなく、単にフォーマットという入れ物の問題である。当然ながら、見ているディスプレイがHDRに対応していなければわかりはしないが、iPhoneやMacbook Pro、最近のテレビはすでにHDRに対応しているため、HDRに対応していないフォーマットとHDRフォーマットを並べればすぐにコントラストの差はわかる。

また、HDRの取り扱いが面倒であったりすると考えることもあるかもしれないが、macOSの写真.appやiPhoneの写真アプリではRAWやAVIF、HEIF、JPEG XRを保存することができるから、個人的には現状困ってはいない。

将来的な表現力を考えると写真はRAWで撮影しておくべきだろう。なぜならば、JPEGで一度撮り溜めた写真はどうやってもHDR画像にはならないからだ。Nikon D3200が発売された12年前、HDR画像フォーマットは存在しなかったが、RAW画像で撮っていれば、現在においてもHDR画像にすることができる。このようにデジタル記録フォーマットは常に進化し続けるものであるから、できるだけ生のデータに近いフォーマットで記録するべきである。

[*] 画質の良し悪しを議論しているのではない

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Written by 謝花ミカ

理系と文系の学際的領域から社会学、自然科学、工学分野について記事を書く。

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