日本で乗る電気自動車は二酸化炭素削減になるのか?

謝花ミカ
Jun 19, 2021

昨今、さまざまな分野において温暖化の原因である二酸化炭素の排出の削減に多大な努力が払われている。運輸部門つまり自動車を含めた人間や荷物の移動手段は、全体の2割弱を占めている[2019 国交省]。

この部分は移動時における二酸化炭素排出であり、自動車の製造段階、つまり製鉄や組み立てプロセスにおいても二酸化炭素は排出される。

バッテリー式の電気自動車(BEV)は当然ながら電気で動くので、そこで例えば非効率で旧式な石炭火力発電をベースとした発電所で作られる電力を使うと、結局のところ二酸化炭素を排出してしまう。

電気自動車を動かして出る二酸化炭素は?

電力会社別の排出量をみてみよう

電気の発電で排出される二酸化炭素がどのくらいあるのかは重要で、これは調整後排出係数という数字で把握できる。単位は t-CO2/kWh であり、すなわち1kWhの電力を購入した際に排出される二酸化炭素の重さとなっている。

ここに表した図は、令和3年度における電力会社別のCO2排出量であり、発電を何で行うかによって当然ながら排出量が変わってくる。ここで沖縄電力の二酸化炭素排出量(0.000787 t-CO2/kWh)が目立つ。これは沖縄の小さい電力需要に対して、それにあった発電プラントを運転しているからである。

大きな河川がない沖縄では巨大な水力発電は不可能だし、原子力発電もオーバースペックで、高効率な超々臨界圧発電方式(USC)も規模からして導入できない。新型の吉の浦LNG発電所が稼働したものの、未だ石炭火力が6割を占めている。

東日本では現時点で原発が動いていない割に、沖縄に比べCO2の排出が少ないのは、低い二酸化炭素排出であるLNGベースの発電所、水力発電、高効率な石炭火力などが利用できるからだ。

ワーストケースの沖縄でどれほどの二酸化炭素が出る?

では、1kWhあたりの二酸化炭素排出量が最悪である沖縄県で、電気自動車を使ったときの二酸化炭素排出量を見てみたい。

電気自動車の効率は、1kmを走る時に使われる電力量 Wh/km を用いて表せられる。例えば日産リーフは164Wh/kmで、リーフe+は172Wh/kmとなる。テスラのモデル3 SR+は147Wh/kmとなっており、数字が小さいほど効率が良い。データは Compare electric vehicles — EV Database (ev-database.org) から取っており、この中でもっとも低い効率の電気自動車はメルセデス EQV 300 Extra-Longという大型バンであり、281Wh/kmであった。

これらの車で1kmあたりでどれほどの二酸化炭素が出るかを計算する。単純に調整後排出係数に Wh/km の値をかければ、1kmあたりの二酸化炭素排出量が出るから、以下のようになる。

電気自動車の1kmあたり二酸化炭素排出量

(エンジン車(ICEV)と比較のため、単位をグラムに直してある)

このように、石炭火力が多い地域では二酸化炭素の排出量はかなり高いものとなる一方で、関西電力を受電している家庭では、かなり低い値になっている。

ガソリン車の排出量は?

一方で、エンジン車の二酸化炭素排出量は以下の式で算出される。これは国交省の式である。

この式を使い、現時点で市販されている日本車のトップに位置するトヨタ・ヤリスハイブリッド、そしてテスラモデル3の車格に相当しうるトヨタ・カムリハイブリッド、メルセデスEQVに相当するトヨタ・ハイエース ディーゼルにおける二酸化炭素の排出量を求めた。

これらは基本的には地域による排出量は大きく異ならないと考えられ、以下のようになった。

エンジン車(ICEV/HEV/Diesel) における二酸化炭素排出量

走行時における排出量のグラフ

結果として、石炭火力の多い沖縄では左のように、全体的に電気自動車の二酸化炭素排出量が多くなってしまう結果になった。

しかしながら、忘れてはいけないのは、これは現時点のエネルギーミックスでの数値であって、将来的に再生エネルギーの導入などで発電の脱炭素が進めば、電気自動車は確実に走行時の二酸化炭素排出量を減らすことが可能だ。実際、沖縄電力では石炭火力の割合を減らしていくとしている[沖電]。

一方、東京電力ではこのように、電気自動車の二酸化炭素排出量はかなり低いものとなる。ハイエース級の車格であるEQVでも、ヤリスのガソリンモデルより少ない二酸化炭素排出量だ。

なお、電気自動車の加速性能や騒音・振動においてエンジン車は当然ハイブリッド車(HEV)を凌ぐ性能を持っており、その点においてはリーフとヤリスを比べるのは割とアンフェアであって、エンジン車側はもう少し上の車格と比較しないといけないかもしれない。そうすると当然エンジン車の重量は嵩み、燃費も下がるだろう。

勝負にならないレベルで差がついたのは、関西圏においてだ。原発が稼働しており発電における二酸化炭素の排出は低いため、電気自動車が走行する場合の二酸化炭素はかなり低い。

ここではエンジン車の出る幕は一切なく、電気自動車の大型バンでもヤリスハイブリッドを凌ぐ。

これがまさにエネルギーミックスが変化すると電気自動車の二酸化炭素排出量が変わるということであり、将来的に発電は再生エネルギーをベースとした脱炭素へ向かうのは明らかであるので、電気自動車の二酸化炭素排出量はゼロに限りなく近づいていく。

記事タイトルの結論としては、「今」、沖縄県で電気自動車に乗るのは二酸化炭素の削減にはならないが、東京などでは削減となる、ということになる。

エンジン車はどうだろう?当然ながら、電力のエネルギーミックスが変わっても一切変わらない。しかし、合成燃料(e-Fuel)で二酸化炭素の排出量は削減できるのでは?という方もいるかもしれない。そんな方のために次の章を書いた。

合成燃料でエンジン車の二酸化炭素排出は減るのか?

合成燃料という燃料がある。これは、空気中の二酸化炭素などを利用してできる燃料である。確かにカーボンニュートラルではあるが、これが全く意味のない技術であることを説明する。

当然のことながら、これは燃料を作る際に電気を利用する。再生エネルギーで作ればいいと思うかもしれないが、実はそのエネルギーで燃料を作るよりは、電気自動車に直接充電した方が無駄になるエネルギーがないのだ。

電気自動車は、簡単に言えば以下のような経路をたどって電気が消費される:
発電変電・送電電池充電モーター

一方で、燃料電池車(FCEV)は以下になる:
発電変電・送電電気分解輸送圧縮してタンク詰め燃料電池モーター

余分にステップが増えていることがわかるだろう。合成燃料は、さらに余計なステップがある:
発電変電・送電電気分解輸送空気から二酸化炭素を抽出合成燃料製造輸送エンジン

これを簡単に効率として表すと、もともとあった電力のうち、電気自動車が実際に走行に使えるエネルギーは40〜70%とされている。一方燃料電池車は水素を圧縮したりする段階でエネルギーが食われるため、23〜33%となり、合成燃料はなんと6〜18%まで落ちる。ソース:[SAE][AVL][Royal Society]

これは明らかに余計なステップに電力が使われているためであって、同じ電力が使えるのなら、電気自動車に回した方がよく、合成燃料を製造する電力を電気自動車に回せば最低でも2倍、最大で12倍弱の車を動かすことができるという話だ。

電気自動車は製造に電力を使うからエコではない?

電気自動車もエンジン車も同じく、当然、製造時に電力を使う。シャシーに使われる鉄の製造時には当然石炭が使われているし、加えて電気自動車はバッテリーを製造する電力も要る。

しかしながら、走れば走るだけ二酸化炭素を排出するエンジン車とは異なり、走行時の二酸化炭素が少ない電気自動車は、走れば走るだけエンジン車のライフサイクルでの二酸化炭素排出量に近づいていく。そして最終的にはエンジン車の排出量が電気自動車の二酸化炭素排出量を追い越すタイミングが来る。

Engineering Explained より、電気自動車が二酸化炭素排出でエンジン車を下回る使用期間

この画像はEngineering Explainedのもので、合衆国平均でのエネルギーミックスにおいて、30kWhの電池を積む小型の電気自動車の場合は、5年程度の間電気自動車を使えば、製造時も走行時も含め、エンジン車の二酸化炭素排出量よりも低くなることを示している。

電気自動車はバッテリー容量により走行可能距離が変わってくるが、同時に製造時の二酸化炭素排出量も変わってくる。より大きい電池を積んだ電気自動車は当然二酸化炭素排出量が多い。

この図では、100kWhの大きな電池を積む電気自動車の場合、ウエストバージニア州など石炭火力が多い州では二酸化炭素排出でエンジン車に対して有利に立つには17.8年を要することが示されている。

電力は二酸化炭素排出をコントロールしやすい

再度になるが、すでに世に出てしまったエンジン車は何年経とうが二酸化炭素を出し続け、距離あたりの排出量は廃車まで変わることはない。電気自動車は発電効率が今後伸びていくから、排出量は減っていく。

そもそもエンジン車を使う過程で、タンクローリーでガソリンやディーゼルの輸送を行うにも少なからず二酸化炭素を排出するし、オイルによる潤滑が必須で、これらオイルの製造時にも排出し、また走行中も微量ながら燃焼していく。

電動化がされていないエンジン車はブレーキ時にブレーキパッドを磨耗させ、空気中にPM2.5粒子をばら撒く[airquality news]。電動化が行われた自動車(BEV, PHEV, HEV, FCEV)は回生ブレーキでエネルギーを回収し、ブレーキパッドの磨耗は最小限だ。

電力で走るということは電力源に二酸化炭素排出を集約できることを意味するため、将来的にCCS (二酸化炭素を回収して地下に埋める)などがしやすい。

電力はソーラーパネルや風力発電で発電でき、過剰な電力は電気自動車に貯めることもできる。この場合は当然二酸化炭素は出さない。このように自然エネルギーとも相性が良い。

このように走行するためのエネルギーを電力にすることで、二酸化炭素の排出はコントロールしやすいものとなる。

--

--

謝花ミカ

理系と文系の学際的領域から社会学、自然科学、工学分野について記事を書く。